刃は外へ向けろ(201348・17度8:35)

 小刀をつい買ってしまうのは、少年時に切れの悪いのを使っていたからである。切れるやつに憧れる。ここ20年はほとんどは鉛筆を削るために使ったが、芯が案外に硬いのか、これまたすぐに切れなくなる。カッターナイフでも鉛筆の芯には弱いし、鉛筆は僕にとって一種神聖な道具であるからカッターでは削りたくない。
 
 研ぎがまともにできないので、研ぐとますます切れなくなる。で、また買う。だんだん高価なのを買って、切れなくなると引き出しの奥にしまう。そうして残っていたのが10本近くもあって、引っ越しで出てきた。写真のは良く切れたが錆びていた。京都の錦市場そばの刃物屋で買ったので調理用の小刀だ。何に使うかは知らない。これもずいぶんと高かったが、道楽だからね。
 源金吉の銘がある。四条河原町の板前料理店で親方が「刃物ならあすこしかおまへん」推薦されたのである。まさか鉛筆を削るためとは言えなかった。
 
 工業デザイナーの秋岡芳夫さんは竹トンボ作りがご趣味で、それは研ぎと繋がっていた。「夜中に冷酒をチビチビやりながら研ぐんだ。不気味だよね」笑っていた。
 元大工でもあった親父は「刃を自分に向ける方向では絶対に使うな。外に向けろ」教えてくれて、ずっと守っている。