花嫁来訪(2103417・波の高さ1メートル15:00)

 60年前には結婚式は3日3晩も続き、夜中に舟やら畳1畳分の松竹梅の急ごしらえの盆栽やらが宴会中の座敷にワッショイと持ち込まれ、故意に当主を困らせることで祝意を表したという。僕は舟はしらないが盆栽は見て仰天した記憶がある。
 そのころお向かいの家から花嫁が出た。子どもは宴会見物にも飽きて家でごろごろしている。そこへ「ごめんねえ」とやってきたのは角隠しを付けたままの花嫁である。知らないお姉さんではないが、あまりの事態にボーとしてると「お便所かしてえ」といってそっちに消えた。黒い地に花柄の衣装だったことまでは覚えている。今村映画のようだ。
 
 向かいのその花嫁の出た家は朽ちつつ、まだ建っていた。見上げるとシラノかジュリエットかを思わせないでもない白い窓も健在である。みんなが群がって落果を待ちわびたこの家の杏の大木はもう無かった。白く塗ってあるだけでお洒落に見えた窓辺は、朽ちつつあっても、花婿の到来をいまも待っているようである。