個人情報(2013327・12度11:30)

 70男が朝6時からワカメを獲りに行くという。漁場は教えてくれない。崖をにじり降りてしか行けない岩場から30キロを担いでよじのぼる。「ついてこれっだか? うー」とアゴを突き出す。あっさりと降参して食うほうにまわる。今はこれくらいの大きさ。5本もいただくと、1週間の朝食はこれだけで満腹になりそうだ。髪だって田谷力三のように生えてこないとも限らない。
 
 かつてはワカメ獲りの日があって、村中で獲ったものだ。根株をオヤツにもらって、生のままかじっていた。いいのか? まあ何とか生きているからいいのだろう。今は自由勝手に好きな岩場で好きなだけ獲っていいらしい。好きな岩場は個人情報だ。魚屋では根株10コで100円である。
 築地市場での根株は大きかった。直径12、長さが30cmもあるやつが250円ほどだったか。いつも4本は買う。5月初旬くらいまでだから焦るのだ。ずいぶんヒイキにして「そんなに食ってどうすんの?」店の親父が呆れていたが、津波で全滅してあれ以降は見なかった。文字通り「根こそぎやられた」と親父は悲しそうにしていた。もうすぐタケノコが出る。オフクロの実家が竹山を持っていて「飽きるぞ」と今から言われている。自然は「さあ食え、さあ食え」と忙しいのだ。