朝もはよから(20121123・7度4:15)

 全身小説家と言われた井上光晴は「朝もはよからカンテラ下げて」と目の前で怒鳴るように歌っただけ。花田清輝は「終日部屋を真っ暗にして小説雑誌を片っ端から読んでおると」と報告。佐々木基一は「諸君。未来は貸本のごとくに映画を借りる映像時代が来る。活字は終わったのだ」と高らかに自慢げに宣言。安部公房は「榎本武揚が脳のここら辺にひかかっていて」と頭をつついた。長谷川四郎は「ライオンが森でウオーとほえた」という詩一編を朗読しただけであった・・・・むかし最前列で聞いた講演会の様子をズラズラとまた思い出したのは、壊れそうな老脳のせいでもあるが、きっかけは朝8時に家を出て、ヤルために立石のその筋では有名という店の前に仲間と並んでいたからである。カンテラはさげてなかった。

 9時半には黒っぽい男が40人は集まっていた。常連と新入りは並ぶ場所が異なる。店には出入り口が2つあって、分かれて入る。常連は10時に人数の確認を受け、座る場所を指定される。新入りもそうされていたかも知れない。常連は常連というだけあって、親しげに「何ちゃんはあれから何したか。ふーん。オレ今週は2度目だよ」なんて言い交わしている。こいつら何だ。わからん。が、変な連中とは思えない。静かである。入店しても同じだ。黙々と一皿180円一律の臓物を3皿食い、強い酒に梅酒をひとたらしたのをコップ3杯飲み、さっと出ていく。ガラス戸の向こうでは次の男どもが読書しながら待っている。50mほど離れた店が常連の2軒目だ。そこでは無事に終えてホッとしたかのように、卵焼きとポテ皿とビールを前に置き、笑って、ずっとヤルつもりでいる。するとさっきの店は毎回何者かになるために朝稽古に通っている道場なんだな、たぶん。