まぼろしの(20121122・7度3:40)

 まぼろしの影を慕いて・・・という歌がある。昔はクラシック調で高らかに、単調に歌いあげられ、最近はたっぷりのお涙調(森進一節)で歌われた。僕にいわせれば両方とも違うように思う。影というものはもっと深遠なのである。よく見ていただきたい。影は寄席切り絵のように全面ベタっとした黒ではないのだ。遠近がある。影は実景の遠近をさかさまにしただけなのである。近い部分のカタチは明快だが、遠くはボンヤリしている。ボンヤリしているほうを歌えばまぼろしとなるが、明快なほうは泣くほど悲しくは感じられない。むしろハッと醒めるほどだ。
 歌はもっぱらボンヤリのほうをテーマにしたのだ。そして聞く側に、影というのはただボンヤリしてるものだ、との思い込みがあるので、ヒットしたのだろう。ところがドッコイ現実の影はカワイク溌剌としていて、嘆き節とは異なるのを思い出させてくれた冬の光でありました。