あなたを待てば(20121114・9度6:00)

 ころは昭和。この場所には連日にわたってお立ち台付きの街宣車が居座り、えんえんと「北方4島は日本のものだ」とか、スピーカーを通して訴えていた。訴えている人物はいつもいっしょで、ガラガラ声の小柄な爺さんである。セリフもくり返していたかもしれない。そばの国鉄ガード下の柱にはこの爺さんの顔がついた黒っぽい小さなビラが大量に貼ってあって、ここらで爺さんを知らない人はいなかった。
 あなたを待てば雨がふる華の数寄屋橋交差点である。ハルキとマチコの数寄屋橋である。ムードぶちこわしではないか。こんなトコで待ってらんないと通行人は足早に通りすぎる。
 ただそれでも我慢して聞いていなければならなかったのが、交番の巡査氏とこの小さな少女である。少女が何者かは忘れたが、爺さんがいなくなってどうだろう。さびしいだろうか。巡査氏のほうは本日は演説していたが、まさか「北方4島は」とかやってるわけではあるまいな。あれだけ聞かされりゃ門前小僧の何とやらで、お経のひとつもあげられよう。
少女のほうは濡れて来ぬかと気にかけながら今日も待っていた。ご苦労だね、今度はそばのペコちゃんトコでケーキでも買ってこようね。