ひとり舟(20121107・13度6:40)

 堀内さんが船頭の絵を描いたことがあった。そばで見ていた僕が「ろ」の位置の間違いに気付き修正を進言すると「エッ?」と意外な方面から声がきたなあ、という表情ですぐに応じたのだが、僕の声に自信の響きを感じ取ったのだろう。
 子どものころ舟を勝手に乗り出し「カナギ」という漁法をまねて底にガラスを貼った箱で海中を眺めていたので、ミニ漁師の体験があったのである。
 
 カナギは今もプロ、アマ(漁連の許可を受けた半漁師)に限らず行われている。両者の漁獲量の差ははなはだしいらしいが、これをやるとアマも止められなくなる。舟は一人乗りで、腹ばいになってアワビ、サザエをとる。サザエは3本指ではさめばいいのだから簡単だが、アワビをおこすのは難しい。アワビだって必死で岩にしがみつくからね。舟は一点に止まってくれないし。

 仕事中のプロの気分は知らないが、アマのはわかる気がしている。箱から海底をのぞいて潮の流れに任せて浮遊していると、体が宙に浮き海中に吸い込まれどこかへ行く感じになるのだ。それでシャッターチャンスを逃して、見てしまう素人カメラマンのように獲物を見逃す。一瞬どうでもいいか、という気分になるのである。だが、それがために男どもはカナギにでるのではないか。たぶん。

↑その日の風・波・潮などを読んで出漁する。

↑生涯役場つとめでありながら、絵も字もよくした従兄弟の古画を写したらしいイラスト。アワビかぎ、ヤスのカタチがわかる。舟の微妙な位置を調整する小さなろ?があるのが面白い。普通は足で、大きいろを動かして調整する。堀内さんの絵はこいでいるろの位置が、左右逆になっていた。