払わなければいい(20121103・10度7:40)

 川端康成はあるバーで若い作家が「のむのは楽しいですが、あとの支払いが大変です」と嘆くと、「では払わなければよい」と言ったという。あの顔で、あの目でジッとにらんで。真面目な話、払わない先生は今だっているかも知れない。

 浦島タロウはホントにいたという本があった(新潮社刊)。タロウは海を渡り高麗だか中国の雅な所で大いに遊んできたというのだ。それはあり得る。子どものころくやしかったのはタロウがフタを開けてしまったことだった。バカな奴である(ユウヅルの機織り部屋をあいつがのぞいてしまったのもくやしかったが)。ツケを払うのは不当だと欲張りは考える。僕も考えた。払いたくないから、払わされたのがくやしいのだ。

 タロウが浜に戻った時に見たものは何だったか。彼に芸でもあれば講談の一席でも語って大儲けしたろう(ホントのタロウはそうしたかもしれない)。だが開いてしまった。たちまちタロウは・・・。
 ところでおと姫は箱をタロウに渡しながら何か言ったか。ユウヅルは「見てはダメよ」と言ったはずだ。子どもにとってはどちらもくやしい結果であるが、物語としては浦島が後世に残るだろう。黙って渡したとするなら、男に対して、おと姫の愛のほうがずっと深いからである。そう思うほうが救われる。