あたりまえだと思ってないか(20121018・16度6:30)

 山口瞳が先生と呼んでいて、九州大でドイツ文学を講じていた、難しい顔のおじさんが高橋義孝である。この人が夜のテレビに出て、ある人が何処かに落とした鍵がしばらくしたら自分の手に戻ってきたのを例にあげて『これが文化というものだ』と結んだのである。その日は文化の日だった。何だか朝礼での校長の訓示みたいだが、文化とは何だと改まって考えると難しいから、高橋先生の話を思い出しては納得した気でいる。

 ところで僕は最初の就職会社のせいかポストカードを出すのが好きだ。就職したのは当時アメリカでは年間何千億も売り上げるカード会社があって、そこと提携して日本でもこれからカード時代が来ると、原宿の竹下通りにつくられた会社だった。あの通りに喫茶店とめし屋が一軒ずつしかなかった時代である。会社は1年ほどであえなく倒産したが、そこで「伝えるとはどういうことか」をちょっとは考えたせいでカードが好きになったのだろう。

 でも好きないちばんの理由は安いからである。50円だよ。信じられない値段だ。それでほとんどは正しく届く。世界の郵便事情は知らないが、どの国でもそうありたいと努力していると思う。これは人類がつくったシステムの中で最高ではあるまいか。それで文化とはこれだと、文化の日じゃないがご挨拶いたした次第であります。決してあれはあたりまえではありません。