暗闇(2013817・闇に消えていくか)

 60年むかし。村の盆踊りは裸電球1灯の神社の境内で行われた。村一番のノドの、声のみによる盆唄がえんえんと続く。子どもらは洗濯したての白い服を着せてもらって、この夜だけは村を走り回ってもよかった。
 踊り場では点でしかない電光と月あかりにボンヤリ浮ぶ踊る大人たちのシルエット。着物が激しく擦れる音。歌い手にかえすゆるやかな合いの手。
 敗戦後6年。戦地からやっと戻った、戻れなかった、戻るかもしれない我が子、兄弟、夫への想い、街にいて空襲で焼死した家族への想いは、まだナマの、「今のこと」だった。宙に迷う霊への深い祈りの踊り、その空気は隅でみつめる子どもにも十分に伝わってきた。大人たちの踊りは真剣だった。夜の闇に体を投げつけるようだった。
 いま。電灯は照らし放題、普段着でひと汗かき、景品をもらって帰る。伝わってきた盆唄が静かな太鼓の音ともに歌われて、東京音頭炭坑節がなかったことだけが救いの盆踊りであった。これも古老とともに消えていくことだろう。