魔笛の家(2013331・6度6:05)

 モーツアルト最晩年の、とてつもない傑作『魔笛』はどこかの庭の小さな小屋で作曲された、という伝説はどうやら嘘みたいだ。だがそう思いたいほどに天上的に美しいアリアの連続である。アマデウスモーツアルトアマデウスは「神の子」という意味らしいが、魔笛を作っている小屋にだけ、その時に神の光がさしたに違いないと、伝説が作られたのだろう。
 何処へ行っても小屋を見るたびにそれを思い出し、小屋さえあれば僕にも何か良い作品が出来るかも知れないとか妄想するのである。どうせ居眠り小屋と化すに決まっているのだが。「小人閑居して不善をなす」ともいい、図星であるから、古人は偉い。現実はそうであるとしても小屋好きは変わらない。胎内へ戻りたいという願望でもあるのかも知れない。
 
 今回のはどうやら道具部屋らしい。最近も手をいれて整備され続けている跡がある。ちょっと良いのは壁のエメラルドグリーンで、朽ちつつある木のグレーとの競合が意識的に配置されているところだ。買い物用の手押し車?や大きな壺、分解してしまったハシゴなど味わい深い。母屋で不要になったガラス戸を主人公にして組み立てられたのではないか。その戸は今は堅く閉じられ、新しい勝手口が設置された。白い新扉の止め釘は濃茶の壁とキチンと水平を守っていて、何気なくプロの仕事らしさを匂わせている。