書けない漢字を背負って(2013218・2度7:00)

 勘三郎が、続いて12代目が亡くなったので、11代目の『勧進帳』を聴いた。
 
 ♪旅の衣は すずかけのー、旅の衣は すずかけのー♪

 何度聴いてもいい調べだ。その衣の襟に丸い実が飾られるすずかけが今の時季には白い肌を見せる。この寒い最中にひと肌ぬぐという変なやつである。近所の公園にも数本あってヒイキにしている。小石川植物園には大木があって、隣のマリの木や黒い肌の菩提樹を手下とする貫禄だ。何度も会いに行った。
 整備される前の小石川植物園は野生のままの部分が多く、すずかけ付近では三つ葉がたっぷりと収穫できたから、近所に住んでいた僕の農園でもあった。お浸しにして昼酒のアテにするのである。
 木と音楽の組合わせでいうと、クラシックにも歌舞伎にも合う不思議さを持っているのに、決して打ち解けない冷ややかさを誇っている。毅然とか昂然とか凛々しいとか、いまだに辞書がなくては書けない漢字を背負って立っているのだ。