下宿屋の娘(201310025・3度5:55)


1802年に描かれたモーツアルト夫人である。コンスタンツェという。モーツアルトが下宿した家の娘だったはずだから、よくある話。彼女には悪妻説もある。夫婦のことに他人がとやかく言う資格はないが、人類史上のスターの妻であるからしかたがないか。
 悪妻説のなかに<モーツアルトの死後に彼女が遺品を整理していて、清書された譜面は残してデッサンは捨ててしまった>というのがあった。
 このことでモーツアルトはデッサンもせずに、いきなりスラスラとキレイな譜面を書くような天才だとする説が出たという(事実は知らない)。だから芸術家に向かない悪妻だと。しかしホントにそうしたとしても彼女を責められるだろうか。モーツアルトは遺体を共同墓地用の大きな穴に、その他大勢の一人として葬られた男である。遺体の上には石灰か何かをまかれただけだ。子連れの借金を抱えた未亡人は部屋も出ていかねばならないので、身を軽くする必要もあったろう。われわれの商売でも紙は邪魔物でもあるから、堀内さんの『アンアン』の手書きレイアウト用紙だって、用が済めば捨てられてしまったのである。万事そういうものだ。

 10年も前に新聞にコンスタンツェの写真が出た。今ならもしかと思い「モーツアルトの奥さん」で検索したらすぐ出てきて驚いたが、前列左のお婆ちゃんだ。1840年の姿だという。お婆ちゃんに罪はありません。悪妻くらいでいちいち死んでいたのでは命がいくつあっても足りないだろうよ。