ご町内の長物といわれて(201310017・−1度4:45)

 ヒマネタ植木鉢大賞のグランプリはとうの昔に審査員の間では決まっていた。といっても審査員は僕ひとりですが。先日もそのグランプリ2作を築地で眺めてきた。無事であった。月島付近に作品がたっぷりあるが、傑作ぶんは再開発によって昨年消滅した。が、まだ少しは残っているだろう。両国あたりにも若干あってさすがに江戸趣味のリキのはいった意匠のもある。
 
 台形の植木鉢が主人公である。植木はツマでしかない。セメントの鉢が防火用水の桶であるのを知っていたら、そうとうの年齢だ。僕だって水をはったのをリアルタイムで見たわけではない。家のアルバムで、戦前に撮られた写真で形は知っていて、実物には20年ほど前に出会った。これが町内にいくつ設置されていたかは不明だが、戦災を受けなかった月島には数多く残ったのであろう。戦災を受けてない密集地というのが共通の残留条件で、鉢は全国にあるらしい。
 
 だから正しくは鉢ではない。戦後に鉢に転用した家があるという物件なのである。爆弾が落ちて火が回るとバケツリレーで、なんていう場面はテレビドラマではお馴染みだけど、じっさいにお役にたった例は少ないのではないか。そんな甘い爆弾でなかったのはご承知の通りだ。竹槍とセットで悲しいお笑いコンビだったのである。
 近ごろまた戦争が起こるとか騒いでいるが、この鉢に出番があるとは小学生でも思うまい。いまや原発にたった1発落とされたら終わりなのは彼らでも知っている。何千発のミサイルの照準がそれに合わせてあってもおかしくない。どちらにしても鉢(防火用水桶)の人生は無用の長物を演じただけであって、その点がグランプリに該当すると審査員は熟慮したのだ。