出番(20121217・6度12:00)

 そいつがついに上陸して咆哮したのを聞いて、そいつが最初から<鳴いてる>のでなく<泣いてる>とわかってショックを受けた少年たちは多かった。洋上で実験のために島々を吹っ飛ばし、島民を蹴散らかし、海を汚して、戦勝した国々は競って爆弾を造った。そいつはその海で生まれた。
 そいつの想いの深さをもっと強く確認したのは、そいつの偽物がそいつを真似てニューヨークに上陸した時である。heには悲しみの欠片もなかった。まるでどうにでも動けるジェラシック・パークから逃げてきた体操選手もどきが意味もなく破壊して回っていた。heはみるからに邪悪で下品であった。
 ではなぜ品川沖にあがってきたそいつは上品と想えたのか。なぜ恐ろしいのに子どもたちは本箱の上にそいつのミニチュアを置いたのだろう。
 そいつはコングのように美人に参ったりはしない。意志力では無敵である。だがいかにも不器用である。一本気である。己の怒りに対して熱線を吐き、暴れ回るしかできなかった。そして深海に沈んでいったはずである。最近になってそいつが密かにじっと偵察しているのに出会った。また出番があるのだろうか。