210255・・・向こうに漂うもの(新谷記)

酒席での堀内ブシが活字になって全開といった名調子。
特に五反田の方から池袋に向かうだけで「荒々しくすさんだ北辺に行く」気分になる
というのが傑作です。
だけどそんなことはどうでもよいのが全体を読むとよく分かる。
「人間がいつもくり返しているものに興味を示す」のは木村伊兵衛のことではなく
堀内さんのことでしょう、と言いたくなる。ずっとあとにパリに行ってから
つくった「パリからの旅」や「アンアン」にパリから記事を送ってきて
連載した「空とぶ絨毯」にある堀内さんの視線と同じではないか。
「記録は記憶である」というアヤを僕は解けたか。

↑堀内さんの生まれた向島界隈は僕の現在の散歩コースでもある。
本所を通ったら異様に目立つ椿があった。空襲を受けた街には堀内さんが
みたものは何も残ってないだろうが、それでも何かを感じるような気がすることが
あるのは荷風や万太郎や小津、古くは芭蕉赤穂浪士の討ち入り・・・
それらへの記憶が幾層もあるからだろう。
そういえば平凡出版創業者の清水達夫さんもこのあたりの人だった。